売り方は、野菜が知っている――NPO法人縁活 おもや・杉田健一さん(前編)

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野菜づくりは、楽しい。土に触れ、自然の中でじっくりと作業をするから、障害者にも向いている。でも、つくった野菜をどう売るのかは、けっこう 難しい問題だ。

「障害者と農業」が持つ可能性を広げようとするなら、障害者がつくった野菜を、もっと知ってもらわねば。知ってもらうには、買ってもらわねば。でも、どうしたら。

ここに「売り方は野菜に教わる」と言う男がいる。

よかったら、赤玉ねぎをどうぞ

「今日のソラマメ、どうですか?」
「いいですよ、色も濃くて。え、この二つ、種類が違うんですか?」
「そうなんです。いつもお持ちしている『おたふく』と、もう一種類…」
「細長いですね…。うん、美味しい! ちょっと固めで、でも豆の味がしっかりして。これ、なんていう品種ですか?」
「え? あ、いやー、ボクにも、わからんのですわ。調べておきます…」。苦笑いの、杉田健一さん。滋賀県・栗東市で作業所「おもや」の施設長を務める。
杉田さん、この日は京都・出町柳に出てきた。 町家を改装したフレンチレストラン「エピス」に、「おもや」でつくった野菜を届ける。いまは昼の三時すぎ。奥のキッチンでは、ディナーの仕込みの真っ最中。シェフの井尻宣孝さんが仕込みの合間を縫って、杉田さんと野菜談義。
「赤玉ねぎ、よかったら一つ試食でいかがですか? 今日のとれたてです」
「どれどれ…、あ、中はけっこう 白いんですね。中ももっと赤いと、料理人としてはうれしいんですけど。…でもうまいですよこれ。生で出したら、いい感じですね」
「ありがとうございます!」
「あ、そうだ、今度あれもつくってもらえないですか、食用の花。あれ、僕らほんとにたくさん使うんで。あればあるほど助かります」
「ホンマですか? ありがとうございます!じゃあつくりますよ、すぐにでも!」
「『おもや』さんは、農薬使ってないんで、こんなお願いもしやすいですよ」
「ありがとうございます!」
杉田さん「ありがとうございます!」で、また一つ、注文をもらった。仕事を増やした。

78円のキャベツに負けた

「おもや」では、2013年から、無農薬・無肥料の自然栽培をはじめた。設立から4年目。2年目からは有機農法に切り替えた。有機農法から自然栽培へと移行していったのには、あるきっかけがあった。

「有機農法で、肥料をたっぷり入れて、無農薬でキャベツをつくったんです。たくさん収穫できましたけど、つくるのにも大変な手間がかかった。いっぱい虫がつきますから、それを手作業でとって。草とり、追肥と、ほんとに一生懸命やった」。自信を持って、できたキャベツを近くのスーパーの横で売り出した、ところが…。「僕らのつくったものと同じ大きさのキャベツが、スーパーでは1個78円で売ってました」。「おもや」のキャベツは200円。全く売れなかったという。「悔しくてね。僕としたら、1個500円で売ってもいいというくらいに手間ひまかけたんですよ」。それが78円のキャベツと並べられ、比較され、負けてしまった。

このとき杉田さんは、野菜を売ることの難しさを思い知った。「これではダメだ。同じようなつくり方をして、同じような売り方をしていては、78円のキャベツに勝てない」。

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※「おもや」の記事は、2014年8月発売の『コトノネ』11号に掲載されています。

写真:岸本剛