仕事をつくってもつくっても、必ずハマらない人が出てくる ―筒井啓介さん(後編)

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みんな、サボっているわけじゃないんだな

早速NPOを取得し、まずつくったのが地域作業所hana。当時はパソコンが爆発的に普及していた時期。データ入力の仕事は腐るほどあった。

筒井さんは自信があった。「ぼくならもうちょっとできるんじゃないかって。当時の工賃の全国平均は1カ月1万2000円いかないくらい。あり得ないでしょ、悪徳でしょと思ってました(笑)」。

その自信はすぐに打ち砕かれる。1カ月後、集計をとってみると、1万円にも届かなかった。「それを見たときに、世の中の作業所がサボっているわけじゃないんだなとわかった。ぼくも放置しとけばこのままなんだろうって」。

このままではいけない。筒井さんは、すぐに動いた。高い工賃を達成している事業所を調べ、見えてきたのは、委託の内職仕事での工賃のアップは難しい、ということだった。「自分たちでモノをつくって、自分たちで値段を決める。そこにしか活路が見いだせなかった」。

お試し購読して新聞エコバッグづくり

とにかく、方針を転換しよう。自分たちで商品をつくろう。職員みんなでアイデアを出し合った。その中の1つが英字新聞を使ったバッグだった。「最初は職員全員で、1週間のお試し購読をして。知り合いにも頼んで」かき集めた英字新聞でバッグをつくり、バザーなどで販売したところ、反応がいい。さらに人の紹介を通じて、「古くなったものを見直して、新しい価値を生み出す」ことがコンセプトのNEWSEDという雑貨ブランドの1商品として扱ってもらえることになった。テレビや雑誌で紹介されたことも追い風になり、最盛期は1日で数百個売れ、電話がパンクするほど。

新聞エコバッグの丁寧な仕事ぶりが評価され、NEWSEDのほかの商品の請負仕事も増えた。いまでは商品企画の段階で声をかけてもらい、作業工程をじっくり相談して受けるほどの信頼関係ができた。「買いたたかれたりしない。作業に見合った料金を認めてもらっています」(筒井さん)。

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マザー牧場のヒット商品、誕生

委託の仕事は、正確さが要求される。たとえば商品シールは、1ミリ単位で貼る位置が決まっている。こういった仕事に向かない人たちにもハマる仕事をつくりたい。筒井さん、手先ではなくからだ全体を使った仕事をと、飲食業に目を付けた。そんなとき、知ったのがトップパティシエが監修し、パッケージイラストを人気絵本作家が描き下ろししてくれるというテミルプロジェクト。早速プロジェクトに参加し、千葉県船橋市にある人気菓子店「菓子工房アントレ」のパティシエの髙木康裕さんといっしょにマザー牧場の牛乳を使った焼菓子「石けりコロロ」を開発。いまではマザー牧場の人気みやげとなっている。

理解あるクライアントも、安定した売上を誇るお菓子もできた。工賃月額は高い人は10万円、平均時給も300円まで上がった。出来高制だが、全国の平均工賃よりはるかに稼いでいる人が多い。晴れて「悪徳作業所」からは卒業だ。けれど、課題はなくならない。「まだ仕事がハマっていない人がいるんですよね」。hanahacoを2015年3月にオープンした。事業拡大ではなく、障害者の仕事を生み出すためだ。

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どんな人も、受け入れる

「ここは社会福祉施設で、税金を使っての事業なので、どんな利用者でも断るべきではないと。それは、ずっと思い続けています」。1つ仕事を見つけても、またそれから外れる障害者が出てくる。hana設立当初からいる知的障害を抱える女性の話をしてくれた。

「みんながカッターを使う仕事をしているとき、彼女、カッター買ってくるんです。定規のときは定規。みんなといっしょのことやりたいけど自分はやらせてもらえない。やってもできないというのをどっかでわかっていて。それがぼくらも苦しくて。どうにかしたいって」。

作業内容も環境も、支援の体制にも、彼女を支えるのにはムリが生じていた。感情が爆発してしまうと本人もつらそうだし、周りも限界。2つ目の事業所、hanahacoを立ち上げたのは、なんとか、こういった1人ひとりに合う仕事をつくり出したいという切羽詰まった思いからだった。

筒井さんの原動力は、いつでも周りの人の小さな声だ。それを、ないことにしない。受け止めて、走り出す。

※コトノネ15号の記事を再編集しています

写真:武藤奈緒美