お神楽、大好き。観ても、舞うても、縫うても――「いわみ福祉会」(後編)

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石見地方約20万人が夢中になる伝統芸能「石見神楽」。年間の公演数は、のべ500回ともいわれる。今日も石見地方のどこかで、神楽のお囃子が聞こえている。そんな石見地方の伝統を、障害者たちが支えている。

みんな、石見神楽が大好き

障害者も、パートも職員も、いわみ福祉会で働くすべての人が、神楽が好きだ、ということが伝わってきた。「佐野工房」の職員・後藤恭司さんがいわみ福祉会に転職したのは、いわみ福祉会の衣装作りが紹介された新聞記事を読んだことがきっかけだった。「鎧を作ったと、新聞の一面に載っていたんですよ。それまでは歯科技工士をしていたんですが、どうしても神楽の仕事がしたくて。34か、35の歳でした。子どももいましたけれど、小さいころからの夢だったので」。試行錯誤を繰り返し、衣装制作を軌道に乗せた。60歳近くなった今も、神楽は続けている。息子の純希さんも、小さいころから社中に入って神楽をやっていた。今ではいわみ福祉会に就職し、「神楽ショップ」で働いている。

パートの「たかちゃん」こと中島崇徳さんは、ここで働いてもう11年。今は面を作っている。パートから正社員になりたいとは、まったく思わないそうだ。「子どものころから神楽が好きで、そういう仕事に就きたいなと思っていたんです。だから今、毎日楽しいです。僕は、頭を使うことは苦手で、細かい手作業が好きなので、このままでいい。収入にも不満はないです。できた時はこれかな、と思っても、他の職人がつくったものをみると、またこうしなくちゃいけないな、なんて思って。こういう技術を学べている今みたいな感じが、ずっと続けばいいと思っています」。

石見神楽の伝統は、石見の人々の中に生きている。だからそこに人が集まる。集まった人が、また、その伝統をつないでいく。「誰か」ではなく、いわみ福祉会という「場所」が、伝統を担い、紡いでいく。

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※「いわみ福祉会」の記事は、2016年5月発売の『コトノネ』18号に掲載されています。

写真:山本尚明