「福祉の商店街」にある、高齢者も障害者も、みんなが楽しむ居酒屋――惣菜ごはん屋でんしん」(前編)

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カウンターの中で店を切り盛りしている小野寺正典さん

北海道・十勝地方の「電信通り商店街」は、JR帯広駅から約1.2キロメートル。徒歩ならおよそ20分。もともとは「晩成社」(明治期に依田勉三が結成した、北海道の開拓者集団)が帯広で最初に開拓した場所であり、のちに帯広初の電柱が建てられたことから「電信通り」と名づけられたというほど、歴史のある場所だ。全国の商店街がシャッター街化し、集客に苦労する中で、「電信通り商店街」は「福祉の商店街」をテーマにし、活気を集めている。

障害者も地域の人も、みんなでアフターファイブ

「電信通り商店街」は、帯広の福祉事業所「帯広ケア・センター」とタッグを組み、2010年に「福祉ショップ ミナミナ」をオープンしたことを皮切りに、さまざまな業態・事業所を呼び寄せ、いまでは12事業所が電信通り商店街に軒を連ねる。就任当時39軒だった商店街組合の加盟者数は、いまでは50軒に増加したという。

「惣菜ごはん屋でんしん」は、帯広ケア・センターがオープンした居酒屋。事業所でつくった野菜を、自分たちで加工し、食べてもらおうという、帯広ケア・センターがこれまで取り組んできた六次化の動きを、さらに加速させる試みだ。

開店して、今年で5年目。商店街で働く障害者も、地元の人たちもすっかり馴染みになった。午後5時をすぎると、仕事を終えた障害者が、次々と店に入ってくる。同じ施設の同僚も、別の施設の人も、地域の高齢者もいっしょになって、お酒を飲んだり、テレビで野球を観戦したりして、アフターファイブを楽しむのだという。

店長の小野寺正典さん。立ち上げから店長として、店を切り盛りしている。以前は「帯広ケア・センター」の利用者だった。「料理人を目指して、北海道中を修行して回っていましたが、いつしか心を壊してしまって。そこで帯広ケア・センターに入所しました」。調理師免許を持っていたのでこの店の立ち上げに誘われた。「不安は大きかったのですが、即決しました」。

メニューも自分で考える。「もともとラーメン屋で働いていたこともあって、最初は中華の献立を考えていたのですが、次第にお客様にご高齢の方が多いとわかって、よりあっさりした味付けの和食メインの献立に変えました。値段もシンプルにしました。食べ物も飲み物も、すべてのメニューが一律300円」。試行錯誤を繰り返しながら、どうにかこうにか最初の1年を切り抜けたあたりから、馴染みの客もついて、軌道に乗ってきたという。

「お店をやっていると、毎日何か新しいことが起きるんです。不安な反面、ワクワクする気持ちがあります。最近は、それを楽しめるようになりました」と小野寺さん。商店街ではたらく障害者の憩いの場が、小野寺さんが再びはたらく喜びを感じることができるようになった場所にもなっている。

※「電信通り商店街」の記事は、2017年5月発売の『コトノネ』22号に掲載されています。

写真:山本尚明