里山には、みんなの仕事がたくさんある――「UNE HAUS」家老洋さん(後編)

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新潟県長岡市の里山をベースに、障害者や生活保護受給者、地元の人たちの仕事づくりに取り組む「UNE HAUS」。次に取り組んだのは、どぶろくづくりだった。

長岡初のどぶろく「雪中壱乃界」

UNE HAUSが2015年からはじめたのが「どぶろく」づくり。UNE HAUSの裏手にある建物が作業場になっている。中に入ると、意外にもさっぱりした造り。がらんとした部屋の中に、業務用の保冷庫が何台か。作業場には、寸胴が2個ほど置かれている。ここで職員と障害者の2人で、できたばかりのどぶろくを瓶詰めする作業が行われていた。一之貝在住で、越後の銘酒「越乃景虎」で50年間杜氏と一緒に働いていたというおじいちゃんに指導を受けながらつくっている「雪中壱乃界」は、「長岡初のどぶろく」という話題性もあり、地方紙を中心に多くの新聞に掲載してもらった。「『障害者をアル中にするつもりか』、という批判もあったのですが、うちで作った米が直接売れますし、瓶詰めやラベル貼りなど、そこでも障害者の仕事ができる。どぶろくを目当てに、観光客も来るようになりました」。2015年の秋に仕込みを始めた1年目のどぶろくは、2016年の3月末には、目標にしていた1000リッターの販売を達成した。

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「うねごはん」をきっかけに、仕事が広がった

「UNE HAUS」の考え方が一番良くあらわれているのが「うねごはん」と呼ばれる、お昼ごはんの提供だ。一食500円。UNE HAUSで働く人たちのほか、近所の人もやってきて、一緒に食べる。食事を作るのは、これまた近くに住むおばあちゃんたち。30畳はあろうかという大広間で、老若男女さまざまな人たちが、和気あいあいと食事をする様子は、いわゆる「施設」の昼食風景とはまったく異なる。家老さんが「うねごはん」をはじめようと思ったのは、いろんな障害者施設を見学した時の経験がもとになっているという。「どこの施設に行っても、食事がそんなに楽しい時間じゃないように思えて。冷たいお弁当を前にして、みんな静かに食べている。うちは農業をやっていて、お米も作っているのに、自分で作った米も食べないなんて、って思いまして」。食事の時間くらいは楽しくしようじゃないかと、日替わりのメニューをみんなに提供することにした。

「うねごはん」の取り組みをきっかけに、UNE HAUSの活動は、一之貝の地域に広がっていくことになる。地元のおばあちゃんたちを輪の中に入れたら、いろいろな情報が、おばあちゃんたちから寄せられるようになった。「集落の誰かが困っているから、相談に乗ってあげてほしい」、「もう田んぼはいらないと言っている農家があるから、田んぼをやらないか」。ということで、米づくりをはじめた。こんにゃくづくりなど食品加工の仕事も、幻のもち米の品種「大正餅」復活させる企画も、そうした地域のつながりで生まれたものだ。

農と食には、人や地域をつなげる力がある。家老さんは、その力をうまく使って、お金だけではない方法で、障害者や生活保護受給者、地域の高齢者たちが「自立」できる場所を作ろうとしている。

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※2017年2月発行の『コトノネ』21号に掲載された記事を再編集しています。

写真:河野豊