里山には、みんなの仕事がたくさんある――「UNE HAUS」家老洋さん(前編)

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朝の9時。長岡駅の東口には、一台のマイクロバスが停まっている。その前で立っている男性に、「コトノネさんですか?」と聞かれ、うなずくと、車の中に案内された。長岡駅前から、車で約20分。車が到着したのは、山の中の民家の前。ここが、特定非営利活動法人UNEの運営する「UNE HAUS」だ。

会員になるだけで、誰でも働ける

出迎えてくれたのは、代表の家老(かろう)洋さん。UNE HAUSにはおよそ50人の障害者が登録している。それだけでなく、生活保護受給者、地域の高齢者も登録していて、それぞれ好きな時にUNE HAUSにやってきて作業をする。「障害者でなくても、年間3000円の会費を払って賛助会員になると、誰でも、ここで働くことができるんです。実は冒頭、取材班を車で送ってくれたのも、生活保護受給者なのだという。時給は200円。わずかな額かも知れないが、家老さんの狙いはこうだ。「障害年金とあわせて10万円あれば、なんとか暮らしていける。じゃあうちとしては、4万円を目指していこうじゃないか、と」。時給400円で日に4時間、週5日働けば、4万円になる。「今はその半分しか出せてないですが、目標は、月4万円です」。そこには、障害者の仕事や生活に「誇り」を取り戻したいという、家老さんの思いがある。「いろんな施設を見てきましたが、みんなが楽しそうに働いているという施設ばかりではなかった。工賃を上げることは必要ですが、その前に、自分の誇りを失わない仕事、その人がやりたい仕事を用意することが大切だと考えました」。

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クロモジもこんにゃくも、お金になる

一之貝の里山には、いろんな仕事があるのだと家老さんは言う。「大儲けはできないですけど、どんな人にも、なにかしらのことができるようになっています」。中心となるのはもちろん、米づくりをはじめとする農業だ。 このあたりは、全国でも有数の、棚田が広がっている地域。機械が入らないところも多く、作業には人の手が欠かせない。高齢化とともに、棚田を放棄してしまう農家もいる。

UNE HAUSの持っている田んぼを見せてもらった。一之貝集落から車でさらに上に上がることおよそ20分。車から降りると、下の集落よりも空気が冷たい。「昔の人は歩いてここまで来たんですよ。棚田のそばに小屋を立てて、忙しいときは家に帰らず泊まり込んだりして」。棚田は美しいが、作業効率は悪い。

米づくりや野菜づくりで採れた作物の加工も行っている。加工には、地元の高齢者の知識やノウハウが生きる。この日はちょうど、玄関横の作業場で、こんにゃくづくりの真っ最中。集落に住むおばあちゃんたちが、こんにゃくを茹でていた。「昔からやっていることだからねえ」とおばあちゃん。こんな事が商売になるのか、と不思議そうに言いながら、こんにゃくづくりの手は休めない。

里山ならではの仕事も生まれている。周辺にたくさん生えている低木「クロモジ」。高級楊枝の材料として知られているが、実は漢方の材料になる。山から採ってきては束ねて、養命酒の材料として卸している。仕事の種類が多ければ、関われる人も多くなる。里山の豊かさが、UNE HAUSの仕事づくりを支えている。

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※2017年2月発行の『コトノネ』21号に掲載された記事を再編集しています。

写真:河野豊