マイナスからのスタートも、なんのその――「フクシアンテナショップ るぴあ」店長、加藤和也さん(後編)

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心身の不調から入院し、障害者就労支援施設の利用者となった加藤和也さんは、「フクシアンテナショップ・るぴあ」の店長に就任した。その加藤さんを待っていたのは、驚くような現実だった。

フタをあけたら、まさかの借金経営!

意気込んで臨んだ「るぴあ」店長としての店舗運営。しかしその経営状況を見た時、加藤さんは驚いた。「少なくない金額の借金があったんですよ!」。借金といっても「るぴあ」や「レジネス」の運営母体となるNPO法人「レジスト」に対しての借金だから、すぐに返さないと潰れてしまう、ということではなかった。でもこのままの経営を続けていたら、いずれ経営は立ちゆかなくなる。なによりそこで働いている障害者が手にする報酬である「工賃」を少しでも向上させたいという思いではじまったはずの店舗が、借金を抱えるなんて本末転倒だ。そこで加藤さんは「るぴあ」の経営改革を決意した。といっても店長の経験も、経営の経験も皆無。ここで加藤さんの、プログラマーとしての経験が役に立った。

「在庫と売上を管理するシステムを、2か月かけて自分でつくりました」。それまでほとんどやっていなかったという在庫の管理、売上の管理。加藤さんのつくったシステムをつかってしっかりと管理することによって、どの時期に、どんなものが売れているのかが見えてくるようになり、適正な仕入れと在庫管理ができるようになったという。そこから新たな販売企画も生まれた。「和歌山の『はぐるま共同作業所』のつくっているゼリーが、夏場によく売れることがわかったんです。このゼリーは通年作られている商品なのですが、うちでは『夏季限定!』として夏場にプッシュしたところ、とてもよく売れました」。目標売上数をあらかじめ設定した上で、5・6月にまとめて注文しておき、それを7・8月で集中販売。こうした計画的な販売企画も、加藤さんが整備した管理システムがあればこそできるようになった。

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ようやく赤字解消! さらにビジネスを広げたい

こうした工夫が実を結んで、加藤さんが店長に就任してから約1年で赤字は解消、今はさらにそれ以上の利益を生んでいる。「今は仕入れのための余剰金をためています。ある程度余裕があれば、もっといろんな販売戦略を打つことができるようになる」。一定の余剰金を貯めることができたら、いよいよ働いている障害者に利益を還元したいという。「この商店街は活気があって人通りも多い。本当はもっと売れるはずなんです」と加藤さん。さらにビジネスを広げるために、店舗の改装を決意した。DIY感あふれる今の内装を変え、棚の数も増やして販売力を上げる。さらに椅子とテーブルを置き、休憩スペースをつくることで「もっとお客さんに入ってもらいやすい、地域の人たちの憩いの場でもあるような店にしたい」という。台所事情は正直苦しい、と加藤さんは苦笑いするが、それでもマイナス経営が改善した今、次のステップに進みたいと意気込む。資金集めと同時に、自分たちのことを知ってもらう機会として、クラウドファンディングもはじめた。

「当事者として同じ経験をしてきた僕だから、一緒に働く障害者が、どんなところに苦労して、なにを考えているのか、わかる部分もある。僕には福祉の経験はないけれど、当事者としての経験がある。自分なりに、彼らの『働き』をしっかりとかえるための支援がしたい。それが彼らを社会で認めてもらうことにつながると思います」。